May 1, 2024

M&A新時代:「敵対的か、友好的か」より、公平性と透明性が重要

(当ブログは、2024 年 4月 30日にモロー・ソダリが発表した英文ブログの日本語訳です。)

経済産業省(経産省)は2023年、株主の利益を確保しつつM&Aの公正性を高めるため、「企業買収における行動指針」を策定しました。その目的は、M&A取引の原則及びベストプラクティスのガイドラインを提示することにより、透明かつ公正なM&A取引ルールを形成し、企業価値創造につなげることにあります。

新指針の重要な要素は、「不招請型買収」という用語の導入です。以前は日本では、不招請型買収は敵対的とみなされていましたが、これからは、企業は自信を持って、より戦略的にM&Aに取り組み、シナジー効果、目標の整合性、長期的価値創造を念頭に置いて潜在的な買収ターゲットを評価できると期待されます。

経産省は、買収提案が歓迎されるか否かにかかわらず、公正で透明性のあるプロセスを期待しています。この行動指針は、企業と株主の双方に利益をもたらすバランスの取れたアプローチを実現することを目指しているのです。本稿では、経産省の考えを概観し、また、過去には起こりにくかったと思われる、日本における最近の取引事例をいくつか紹介します。なお経産省と東京証券取引所(東証)が導入したこのイニシアチブは、M&Aだけでなく、はるかに広範な影響を及ぼすことに留意すべきです。現在、ROEの向上や株主への利益還元に積極的に取り組んでいる企業は少なくありませんが、その中には潜在的な買収者やアクティビスト投資家の注目を避ける目的がある場合もあるからです。

(本行動指針には)買収提案を受領した場合には取締役会に報告し、取締役会はそれを検討しなければならないと規定する行動規範があります。買収に関する透明性の向上が期待されています。買収に関する公平性を確保するためにも、独立取締役で構成される特別委員会を設置すべきでしょう。買収側も被買収企業側もタイムリーに情報を開示しなければなりません。透明性の確保は、株主との信頼関係を構築し、関連ステークホルダーに十分な情報を提供することにつながります。同時に、企業は株主と対話し、意見を求め、彼らの懸念に対処すべきです。しかし最終的には、取締役会と特別委員会はステークホルダーの利害のバランスを取る必要があります。株主価値は極めて重要であるものの、企業は、この買収が従業員や取引先、さらに広範なコミュニティに与える影響も考慮する必要があります。また企業は、短期的な利益と長期的なサステナビリティのバランスを見つけなければなりません。

資本コストや株価を意識し、持続的な成長と企業価値向上のための計画を開示するよう企業に促す東証の施策に加え、当指針が経産省からこのタイミングで発表された意義は重大です。

日本は、労働力人口の減少、高齢化の進展、安全保障問題など、マクロ的な逆風に直面しています。労働力人口減少と労働市場逼迫と向き合って、経産省は、競争力強化のための産業統合と、研究開発・設備投資による余剰資本の有効活用を奨励しています。これは、雇用保護が優先事項であったバブル崩壊直後からの大きな変化です。

長期にわたる経済停滞と投資不足は、日本に戦略的リスクをもたらしました。日本は優れた技術を持っていますが、経済成長の欠如と過度に保守的な企業文化から、日本企業の収益性は相対的に低く、地政学的競合他社による買収に弱い、という場合が少なくありません。日本は今、競争相手の数を減らし、利益率やROEを改善して、国内、さらには世界チャンピオンを生み出したいと考えています。その結果、明らかに少数株主の利益にならない親子上場の解消を含め、コングロマリットの再編成が奨励されている訳です。

かつて銀行は日本企業の大株主であり、その利益は必ずしも少数株主と一致していませんでした。現在、銀行はこうした株式保有を減らしており、一般株主にとってより公平な市場になってきています。最近では、金融庁による損害保険会社の価格調整に関する調査の後、大手4社が6兆円から8兆円と推定される株式持ち合いの解消を加速させると発表しました。

合併による国内石油精製業界の再編は、(M&Aから)何が起こりうるかを示すケーススタディであり、ここではアクティビスト投資家の役割も無視できません。効率性の低い施設は閉鎖され、過剰生産能力が削減され、遊休不動産活用の道も開きつつ、収益が改善しました。対照的に製紙業界は変化に抵抗してきましたが、これもまた変わるかもしれません。

個別の、目立った事例をいくつか見てみましょう。:

– 2022年、工作機械メーカーの滝澤鉄工所(現:TAKISAWA)は日本電産(現:ニデック)との業務提携を拒否しました。2023年、ニデックは敵対的をも辞さない形でTAKISAWAを買収しました。永守会長はこの買収を、将来のTOBの先駆となるものと位置づけました。

– 2023年11月、エムスリーはベネフィット・ワン株式の大量取得について、(ベネフィット・ワンの親会社の)パソナと協議していました。その翌月、第一生命ホールディングスはベネフィット・ワンの100%株式を、エムスリーの公開買付け価格を大幅に上回る価格で、不招請のまま、公開買付けする提案をしました。パソナは、親会社が過半数を所有する子会社の株式を子会社に売却しても、社内譲渡として扱われるため税金を支払わないで済むという法律が利用できました。パソナがこれを実行し、第一生命はベネフィット・ワンの株式を100%取得しました。興味深いことに、第一生命の菊田社長は先週、その成長戦略の一環として、今後も同意なき買収を行うことも辞さないと示唆しています。

– 2024年3月、ブラザー工業がローランドDGに対する公開買付けの意向を表明しました。買付け価格は5,200円で、MBOの買付け価格をわずかに上回っています。この状況は現在もまだ決着しておらず、現在のローランドDGの株価は、ブラザー工業による入札価格に対して6%のプレミアムで取引されています。この不招請公開買い付けの発表と同時に被買収企業の株価は上昇しましたが、興味深いことに、本稿執筆時点では、それ以上に買収側企業の株価の方が上昇しています。

以上は不招請型公開買付けの事例です。今後、このような事例が増えるでしょうが、経産省、東証、株主の意向に沿った友好的なM&Aも増えていくと思われます。企業は、M&Aに聞く耳をもたなくてはなりません。M&Aが公正で透明性の高い方法で行われれば、すべてのステークホルダーに利益をもたらす、より効率的な企業が生まれる場合が少なくないからです。ニデックがTAKISAWAを買収した際に永守会長が説明したように、多くの場合、従業員やビジネス・パートナーはハッピーです。経営陣の中には自分たちの地位が脅かされると感じる者もいるかもしれませんが、これは変化を拒む理由にはならないのです。

原文はこちら

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