May 6, 2024

企業サステナビリティ報告指令(CSRD)への指針:日本企業のためのガイド

(当ブログは、2024 年 5月 3日にモロー・ソダリが発表した英文ブログの日本語訳です。)

はじめに

サステナビリティと責任ある企業行動が注目される時代にあって、サステナビリティが企業に与える影響に対する関心事項に、CSRDという新たな略語が加わりました。欧州連合(EU)が採択した最新の規制である、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)を歓迎しましょう。この新しい情報開示規制は、ビジネス環境を再構築すると言っても過言ではありません。EU域内に事業所や子会社を持つ、あるいはEU諸国と貿易を行っている日本企業にとって、CSRDへの対応は必須です。対象企業の開示開始時期は欧州事業の規模によって異なりますが、事業規模に応じて2026年から2029年の間に開示が求められます。従って開示計画を開始するには、今が良いタイミングです。

本稿は、CSRDの主要なポイントを理解し、日本企業の規制遵守プロセスへの指針になる、初期的なガイドとして作成しています。

CSRDについて

CSRDは、EU上場企業間のサステナビリティ関連開示の透明性と比較可能性を高めることを目的とした、極めて重要な規制です。これは既存の非財務報告指令(Non-Financial Reporting Directive:NFRD)を発展させ、環境・社会・ガバナンス(ESG)の側面を含む、より広範なサステナビリティ項目に対する報告義務を導入たものです。CSRDの主なポイントは以下の通りです。

o対象範囲の拡大: CSRDは、報告義務の対象範囲を拡大し、大規模な事業体(PIEs)だけでなく、特定の中小事業体も含んでおり、すなわちその対象企業数が増加しました。

o統一的報告基準: CSRDは、EU全体でサステナビリティ報告の実務を標準化し、開示内容の一貫性と比較可能性を促進することを目的としています。これにより、ステークホルダーや投資家の意思決定が向上します。

oマテリアリティ評価: 企業はマテリアリティ評価を実施し、事業運営やステークホルダーの利害に関係するESG要因を特定し、優先順位をつけることが義務付けられました。この評価を経ることによって、開示情報が適切で意味のあるものとなります。マテリアリティ評価の重要なポイントについては後述します

o保証要件: CSRD準拠のためには、企業は初年度から、自社のESRS基準準拠、基礎となるダブルマテリアリティ評価プロセス、および特定の報告指標に関する限定的保証を得る必要があります。

日本企業の規制遵守への指針

CSRDに対応するためには、いくつかの重要なステップ(既に馴染みのある事項も含む)から成る、体系的なアプローチが必要です。

1. ギャップ分析:日本企業は、現在のサステナビリティ報告体制がCSRDの要求事項をどの程度満たしているのかを評価するために、徹底的なギャップ分析を行うべきです。この分析により、遵守できていない領域を洗い出し、今後必要となる対応事項を決定します。

2. ステークホルダー・エンゲージメント:投資家、顧客、従業員、規制機関などのステークホルダーとのエンゲージメントは、サステナビリティ開示に対するステークホルダーの期待を理解するために不可欠です。この結果をマテリアリティ評価に反映し、ステークホルダーの関心事項との整合性を担保します。

3. マテリアリティ評価:日本企業は、マテリアリティ評価を従来以上にしっかりと行わなければなりません。「ダブルマテリアリティ(二重の重要性)」評価を行う必要があるのです。CSRDの下では、企業は財務上のリスクや機会だけでなく、事業やステークホルダーにとって重要な環境・社会・ガバナンス(ESG)要因を評価し、開示することが求められています。具体的には、財務的マテリアリティ、つまり財務情報における、投資家にとって重要な事項と、より広範な社会的・環境的マテリアリティ、すなわち企業の活動が社会や環境に与える影響の、両方を見る必要がある、ということです。この統合的なアプローチは、気候変動、社会的不平等、規制動向などの要因が、企業の長期的なサステナビリティや財務パフォーマンスに重大な影響を与える可能性がある、との認識の下、企業の透明性と説明責任を確保しようとするものです。したがって、財務的な考慮事項と非財務的な考慮事項の両方に対応する、包括的な報告が必要とされているのです。

4. データ収集と管理:(社内の)ESG関連データを集めて分析する上で、しっかりとしたデータ収集・管理システムの構築が極めて重要です。日本企業は、サステナビリティ情報の正確性、完全性、信頼性を確保するための社内プロセスを導入しなければなりません。

5. 報告フレームワークの選択:CSRDの要求事項に沿ったサステナビリティ開示体制を構築する上で、GRI(Global Reporting Initiative)スタンダードやSASB(サステナビリティ会計基準審議会)スタンダードなど、適切な報告フレームワークの選択が不可欠です。

6. 財務報告との統合: サステナビリティ報告を財務報告プロセスと統合すれば、企業開示の一貫性と透明性が高まります。日本企業は、サステナビリティ指標を財務指標と整合させ、自社のパフォーマンスを包括的に把握できるようにするべきです。

7. 保証と検証: サステナビリティ報告に対する保証を得れば、信頼性・信用性が高まります。将来的には、(CSRDに限らず)保証取得が必須となる場面が増えると思われます。

このステップはわりと順次的ですが、サステナビリティは道程であり、一度到達すれば終わり、というものではありません。CSRDへの遵守は継続的なモニタリングと改善が必要なプロセスです。日本企業は、進化する規制要件やステークホルダーの期待を反映させるべく、サステナビリティ報告の実務を定期的に見直し、更新していかなければなりません。

結局のところ、EU市場で事業を展開する日本企業にとって、CSRDへの対応は困難であると同時にチャンスでもあります。残念ながら、困難が先に来るのが常ではありますが。しかし前向きに捉えるならば、この指令の重要ポイントを理解し、その遵守のために体系的に取り組めば、日本企業はサステナビリティ情報開示の透明性、説明責任、信頼性を高めることができる、とも考えられるのです。CSRDはEUの規制かもしれませんが、世界は同じ方向に向かっています。なのでこれを積極的に受け入れるのが得策ではないでしょうか。このような考え方は、規制への確実な遵守にとどまらず、ステークホルダーとの関係を強化し、長期的な価値創造の促進に繋がるのです。

原文はこちら

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